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福島地方裁判所 昭和62年(ワ)12号 判決

主文

一  被告は、原告佐々木廣充に対し金三○万円、原告齊藤正俊に対し金二○万円、及びこれらに対する昭和六二年二月一四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、原告佐々木廣充に生じた費用の一○分の七及び被告に生じた費用の二○分の七を原告佐々木廣充の負担とし、原告齊藤正俊に生じた費用の五分の四及び被告に生じた費用の五分の二を原告齊藤正俊の負担とし、その余の費用を被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(昭和六二年(ワ)第一二号事件)

1  被告は、原告佐々木廣充に対し、金一○○万円及びこれに対する昭和六二年二月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

(昭和六二年(ワ)第一三号事件)

1  被告は、原告齊藤正俊に対し、金一○○万円及びこれに対する昭和六二年二月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(両事件とも)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

3 仮執行宣言を付する場合には仮執行免脱の宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

(昭和六二年(ワ)第一二号事件)

1  (当事者)

(一) 原告佐々木廣充(以下「原告佐々木」という。)は、福島県弁護士会所属の弁護士であり、被疑者A(以下「被疑者A」という。)の売春防止法違反被疑事件(被疑事実は別紙被疑事実一記載のとおり。)の弁護人であった。

(二) 被告は、右売春防止法違反被疑事件に関し、福島地方検察庁検察官甲(以下「甲検事」という。)に右事件の捜査及び被疑者Aの勾留の職務を遂行させ、公権力の行使に当たらせていた。

2  (本件接見妨害)

(一) (第一次接見妨害)

(1) 被疑者Aは、昭和六一年一○月二○日に逮捕され、同月二二日より代用監獄福島警察署(以下「福島署」という。)に勾留された。原告佐々木は、同月二四日に被疑者Aの妻から弁護人に選任された。

(2) 原告佐々木は、同月二四日午後三時一五分ころ、福島署に電話し、福島署司法警察員鴫原満穂警部補(以下「鴫原警部補」という。)に対しすぐ被疑者Aとの接見に行く旨申し入れたところ、どうぞとの返事であったので、同署に行った。

(3) 原告佐々木は、同日午後三時二五分ころ同署に着き、被疑者Aと接見しようとしたところ、鴫原警部補から、被疑者Aについては接見禁止になっているので、検察官の指定書を持参してもらいたいと言われた。原告佐々木は、鴫原警部補に対し、被疑者Aが在監しているか尋ねたところ、在監しているとのことだったので、在監中ならば指定書がなくとも接見させるべきであると申し入れた。鴫原警部補は、右申入れを拒否し、担当検察官の了解をとってほしいと言って、検察庁に電話したうえ、甲検事に対し右経緯を話した後、原告佐々木と電話を交替した。

(4) 右電話で、原告佐々木は、甲検事に対し、留置係に電話連絡をして了解を得たので接見のために福島署のほうに来てしまったこと、被疑者Aの妻からの依頼であること、被疑者Aが在監していることを伝え、接見を申し入れた。これに対し、甲検事は、接見をすることはかまわないが、指定書を取りに来てもらいたいと言った。原告佐々木は、接見の指定をするのであれば電話で留置官に指示してほしい旨申し入れたが、甲検事は、書面で指定するので、原告佐々木の事務員に電話で連絡して指定書を取りに来させてほしい、接見は午後三時五○分から一五分間ではどうか、などと言った。原告佐々木は、四時から用事があることを告げ、あとから事務員に指定書を取りに行かせるから、すぐに接見させてほしいと申し入れた。甲検事は、原告佐々木が事務員に連絡して指定書を取りに来させることを前提に、現時点から一○分後の三時四五分から一五分間にすると言った。原告佐々木は、被疑者Aが在監しており、捜査に支障がないにもかかわらず、甲検事が指定書を受領することにこだわるので、いわゆる一般的指定をしているのではないかと思い、甲検事に、一般的指定をしているのかと尋ねたところ、甲検事がこれを肯定したので、準抗告をする旨伝え、電話を切った。

(5) なお、甲検事は、右同日、鴫原警部補に対し、電話で、「別に指定書で指定するまで接見をさせないようにしてほしい。」と指示して、いわゆる一般的指定を行った。

(6) 原告佐々木は、同日準抗告の申立をした(以下「第一次準抗告の申立て」という。)が、甲検事は、裁判官に対し、弁護人に協議のために検察庁へ来庁してほしい旨告げたところ、弁護人は準抗告をすると言って一方的に電話を切ったこと、及び一般的指定は行っていない旨の虚偽の報告をしたため、本件では一般的指定はなされていないとの理由で、右準抗告の申立が棄却された。

(二) (第二次接見妨害)

(1) 原告佐々木は、同月二五日午前一一時過ぎ、電話で鴫原警部補に対し、本日午後四時過ぎに被疑者Aに接見したい旨申し入れたが、鴫原警部補は、担当検事と事前に話をしてほしいと答えた。

(2) 原告佐々木は、同日午後零時一○分ころ、右(一)(6)のとおりの理由により準抗告が棄却されたことを知り、甲検事に対し、電話で、同検事が右(一)(6)のとおり裁判官に報告したことについて抗議した後、一般的指定をなしていないならば同日午後四時から接見をしたいと申し入れた。これに対し、甲検事は、検察庁に具体的指定書を取りに来てほしいと言うのみで具体的指定をなさなかった。

(3) 原告佐々木は、同日午後四時三五分ころ、福島署に赴き、留置係の当直者と思われる警察官に被疑者Aとの接見を申し出たところ、検察官の指示を受けてほしい旨言われた。そこで、原告佐々木は、電話で甲検事に対し接見を求めたところ、甲検事は、「協議のために来庁願いたい。指定書を取りに来ていただきたい。」と言うので、原告佐々木は、「指定書を持参しない限り接見を認めないのか。」と聞いたが、甲検事は、それには答えず、「現在被疑者は取調中のはずであるから、確認してほしい。」と言った。そこで、原告佐々木は、警察官に被疑者Aが取調中であることを確認したうえ、さらに甲検事に対し接見の具体的指定をするように求めたが、同検事は、「接見の指定に関し、協議をしたいので検察庁に来てもらいたい。」と答え、原告佐々木が、あらかじめ接見の申入れをしているのだから、取調べを一時中断して会わせてほしい、午後五時過ぎから明渡執行の立会いをする必要があるので、電話で指定してほしいと要望しても、同検事は右回答を繰り返し、指定書を取りに来てほしいと言うのみであった。原告佐々木が、「具体的指定書を持参しない限り接見を認めないとの処分なのか。」と聞いても、それには答えず、右同様の回答をするのみであった。原告佐々木は、具体的指定書持参を求める根拠を問い、同検事から「接見事務の明確化のためである。」との回答を得たため、本件については電話による協議で十分であり具体的指定書を持参する必要はない旨説得したが、同検事の回答は変わらなかった。原告佐々木は、さらに「いつ会わせるのかはっきりしてくれ。」などと言ったが、同検事がやはり具体的指定をなさなかったので、同日午後五時五分過ぎに電話を切り福島署を出た。

(4) 原告佐々木は、明渡執行の立会いが終了した後、同日午後五時五○分ころ再度福島署を訪れ、電話で甲検事に対し、電話による指定を求めたが、同検事は協議のための来庁を求め、右(3)と同趣旨のやりとりに終始したため、原告佐々木は、検察官のほうで十分検討のうえ指定されるよう、しばらく福島署で待機しているので、連絡されたいと要望して、電話を切った。

(5) その後、同日午後六時一○分ころ、甲検事から原告佐々木に対し、電話で、監獄法施行規則との関連で協議のため検察庁に来庁してもらいたい、そのため検察庁で二○分ないし三○分待機しているとの連絡があった。原告佐々木は、電話による協議をなし、捜査の必要性があるならば、具体的指定をしてほしいと申し入れ、電話による協議ができない理由を尋ねた。しかし、甲検事は、電話による協議ができない理由には答えず、具体的指定もなさなかった。原告佐々木は同日午後七時ころまで福島署に居たが、それ以上とどまっても接見ができないと判断して退去した。

(6) 原告佐々木が、右(4)のとおり接見の申出をした際、被疑者Aの取調べは行われていなかったが、原告佐々木が甲検事と交渉している間の午後六時二三分に取調べが再開され、原告佐々木が福島署を出た直後の午後七時三分に右取調べは終了した。

(7) 原告佐々木は、同日午後一一時四○分に準抗告の申立て(以下「第二次準抗告の申立て」という。)をした。裁判官は、原告佐々木と甲検事との右応酬について、接見の日時の指定方式についての議論にとどまり、接見指定書を持参しない限り弁護人と被疑者との接見を拒否する旨の処分があったものと解することはできないとして、右準抗告の申立てを棄却した。

(8) なお、右同日、原告佐々木は、鈴木芳喜弁護士に相弁護人となることを依頼し、同弁護士は、同月二七日午前九時三○分ころ、甲検事に接見の申入れをした。甲検事は、鈴木弁護士に対し、指定書を取りに来てくれるかと聞いた。鈴木弁護士はこれを承諾するとともに、昼休みしか接見できないと言った。甲検事は、これをただちに承諾したため、鈴木弁護士は、同日午前一二時に、同日午前一二時から午後一時までの間に二○分との具体的指定書を受け取り、同日午後零時三○分ころ、被疑者Aと接見した。

(三) (第三次接見妨害)

(1) 原告佐々木は、同月二七日午後四時ころ、鴫原警部補に対し、電話で被疑者Aの取調べ状況について確認したところ、同警部補は、「いまの時点で調べていません。いま終わったところです。」と答えた。

(2) 原告佐々木は、捜査に支障がないものと判断し、ただちに福島署にでかけた。そして、同日午後四時一五分ころ、同警部補に面会し、再度被疑者Aが在監中で取調べを行っていないことを確認のうえ接見を求めたところ、同警部補は、検察官作成の指定書を持って来てほしいと言った。原告佐々木は、最高裁の判例によると、現在の状況は「捜査のため必要があるとき」に該当しないので、具体的指定書の持参は不要であると主張したが、同警部補は甲検事に電話したうえ、指定書の持参が必要であると答えた。

(3) 原告佐々木は、甲検事にも同様の説明をして接見をさせてほしい旨申し入れた。甲検事は、検察庁に指定書を取りに来てほしいと述べ、捜査のためどういう必要があるのかという原告佐々木の問いに対して、「それは今あるか具体的なことはわかりませんが、とにかく検察庁に来てもらいたい。」と答えた。原告佐々木は、捜査のため必要がない場合にも指定書の持参を求めるのかと尋ねたところ、甲検事は、現在捜査のため必要があるか分からないとしか答えないので、原告佐々木は同検事に対し、被疑者Aが在監中か、取調べが終わったかどうか確認してほしいと要望して、電話を鴫原警部補と交替した。鴫原警部補は、甲検事との電話とのやりとりで、「えー」と肯定的に答えるのみであったので、原告佐々木は、鴫原警部補と再度電話を交替したうえ、甲検事に対し、被疑者Aを現に取調べしていないことを確認したのか尋ねたところ、甲検事は「いや」と答えて否定し、検察庁に来てほしいと答えるのみであった。そして、原告佐々木が、捜査の具体的必要性があるのか再度尋ねたところ、甲検事は「たとえば、これから(甲検事が)取調べに行くかもしれない。」等と述べた。原告佐々木は、現在在監中で取調べをしていないのだから会わせるべきで、検察庁に行く必要はないと言うと、同検事は「捜査の必要性について今あるかはわかりません。ないかもしれない。しかし取調べを一時中断しているのかも知れない。これから取調べをするかもしれない。」と述べ、さらに検察庁に指定書を取りに来てもらいたいと言った。原告佐々木は、捜査の必要性を明示しないので、指定書を受け取る必要性はないと答え、さらに接見を求めると言って同日午後四時三九分に電話を切った。

(4) 原告佐々木は、同日準抗告の申立て(以下「第三次準抗告の申立て」という。)をしたが、裁判官は、甲検事が、指定書を交付するから取りに来てほしいと述べたにとどまり、指定書がなければ接見を拒否する旨述べていないので、処分があったとはいえないとの理由で、右申立てを棄却した。

(5) 原告佐々木は、いまだ一回も被疑者Aと接見していなかったため、同月二九日午前一一時五○分ころ甲検事に電話で接見を申し入れ、指定書を受領のうえ夕方面接したいと言ったところ、甲検事は、取調中かもしれないが、指定書を持参するなら、取調べを中断してでも会わせると答えた。原告佐々木は、同日午後四時少し前に事務員に指定書を取りに行かせ、午後四時四○分から五時まで被疑者Aと接見した。

(四) (第四次接見妨害)

(1) 原告佐々木は、同月三一日午後四時二五分ころ、福島署留置事務室に赴き、鴫原警部補に対し被疑者Aが在監しているか否かを尋ねたところ、在監しているとのことだったので、接見を申し入れた。鴫原警部補は、原告佐々木が指定書を持参していないことを知ると、ただちに担当検事に連絡をとると言い、原告佐々木が意見を述べようとしても無視し、甲検事に電話したうえ、電話を交替するように言った。

(2) 原告佐々木は、甲検事に対し、接見の申出があった場合には検察官に連絡するようにとの指示を鴫原警部補にしているのかと尋ねたところ、同検事は、捜査の必要性等について指示はしていると答えた。原告佐々木は、甲検事が被疑者Aが在監しているか否かについて確認する必要もあると考え、一度鴫原警部補と電話を交替した後、再度電話を交替した。甲検事は、原告佐々木に対し、接見するに当たっては、指定書を検察庁に取りに来てほしいと述べた。原告佐々木は甲検事に対し、指定書を取りに行かない限り会わせないという処分をしているのかと尋ねたが、甲検事はこれに答えず検察庁に指定書を取りに来てもらいたいとの答えに終始した。原告佐々木は、検察官がだめだと言っても留置官等が会わせると言うならば会ってもいいのかと尋ねたところ、甲検事は、検事の身柄であるから検事の指示がなければだめであるとの回答をした。これに対し、原告佐々木は、被疑者Aは在監中であるから接見をさせるべきであるなどと申し入れたが、途中で福島署司法警察員会田享警部(以下「会田警部」という。)が留置事務室に来たため、同警部と電話を交替したが、会田警部も検察官の指示に従うとのことであった。

(3) その後、原告佐々木は、会田警部及び鴫原警部補に対し、留置係の責任などについて判示した裁判例などを説明したうえ、甲検事の指示の内容について尋ね、指定書を持参しない限り接見をさせないということか確認したところ、肯定した。そこで、さらに検察官の指示がそうであっても、被疑者が在監しているならば、独自の判断で接見をさせるべきだとの意見を述べた。これに対し会田警部は、鴫原警部補が「在監中」であると言ったのは、警察署内に居るということで、房に居るということではないと言いだした。原告佐々木は、それはおかしいと抗議したうえ、さらに同警部らに対し、被疑者Aが房に居るか聞いたところ、今度は答えられないと言いだした。そこで、原告佐々木は、さらに抗議をしたが、いくら言っても接見をさせないとのことだったので、やむなく午後四時五○分ころ留置事務室を出た。

(4) なお、被疑者Aは、同日午後四時二五分から午後四時五○分までの間、取調中ではなく、監房に在監していた。

(5) 原告佐々木は、同年一一月三日、準抗告の申立てをした。裁判官は、同月五日右申立てを一部認め、同日午後四時四○分から二○分間接見できる旨の決定をなした。

3  (本件接見妨害の違法性)

(一)(刑事訴訟法三九条三項の捜査の必要性の意味)

(1) 刑事訴訟法三九条一項の規定する接見交通権は、憲法三四条前段の被疑者の弁護人依頼権に基づきこれを具体化したものであり、被疑者にとっては刑事手続上最も重要な権利に属する。

(2) 同条三項は、捜査機関に接見指定権を付与しているが、これは捜査の緊急性を考慮して例外的に捜査官に第一次判断権ないし仮の権利として指定権を付与したものである。したがって、捜査機関が例外的に接見を指定できるのは、本来自由になしえるはずの弁護人の接見を指定するほどに捜査の緊急性がある場合に限定される。すなわち、同条三項の捜査の必要性は、具体的に被疑者が取調中であるとか、検証・実況見分・引き当たり捜査に立会中である場合であり、かつ捜査の中断による支障の顕著な場合に限られる。

(3) 右の捜査の必要性について、罪証隠滅のおそれがある場合も含むとする見解もあるが、右見解は、検察官ないし検察官出身者のみによって支持されているにすぎないうえ、弁護人との接見交通を遮断することにより、被疑者の黙秘権を侵害し、自白獲得を容易にすることを目的とするものであって、容認することができない。

(二) (一般的指定制度の違法性)

(1) いわゆる一般的指定の制度とは、昭和六三年改正前の法務大臣訓令事件事務規程二八条に基づき、検察官が、被疑者の在監する監獄の長に対し、捜査のため必要があるので、被疑者と弁護人又は弁護人になろうとする者(以下「弁護人等」という。)との接見又は書類若しくは物の授受に関し、その日時、場所及び時間を別に発すべき指定書(具体的指定書)のとおり指定するとの文書を交付する制度である。右の一般的指定により、弁護人等と被疑者との接見は一般的に禁止され、被疑者と接見しようとする弁護人は、いちいち検察官にその旨の申出を行い、検察官から具体的指定書の交付を受けなければ接見ができなくなる。

(2) 一般的指定の制度は、右のとおり、本来刑事訴訟法三九条一項による接見の自由が原則で、同条三項による接見指定が例外であるはずなのに、この原則と例外を逆転させるもので、憲法三四条、刑事訴訟法三九条に違反し、弁護人等と被疑者との接見交通権を侵害するものである。

(3) 福島地方検察庁次席検事は、昭和六一年当時、福島県警察本部や拘置所あてに、刑事訴訟法八一条の接見禁止決定のなされた事案について、弁護人等が指定書を持参しないで被疑者との接見を申し出た際には、ただちに主任検察官に連絡するようにとの通知をしており、右通知により、接見の申出があった旨の連絡があると、検察官は接見の日時、場所及び時間を具体的指定書によって指定していた。これは、一般的指定による原則的な接見禁止と具体的指定によるその禁止の解除という方法と何ら異ならないものであり、右(2)のとおり違法である。

(三) (具体的指定権行使の方法)

(1) 右(一)(2)の捜査の必要性がある場合、検察官は、まず弁護人と協議して、できる限り速やかな接見のための日時を指定しなければならないが、右の協議が整わなかった場合にも、検察官は、弁護人の接見の申出が撤回されたと見ることはできず、捜査の中断による支障が顕著な日時を特定して、その他の時間における接見申出に備えなければならない。

(2) また、右指定の際、弁護人に対し、具体的指定書の受領と被疑者留置先への持参・提出を義務付けるのは違法である。刑事訴訟法三九条三項は、弁護人に対し右のような義務を課していないから、本来自由であるべき接見交通権に法が予定しない制約を課することになるからである。検察官が指定権を行使する方法としては、電話による指定で足り、事務の明確化のためには、電話による指定の後に検察官が監獄の長に具体的指定書を送付するなどの方法があるのであるから、事務の明確化などを理由として、弁護人に右の義務を課することはできない。

(四) (本件接見妨害の違法性)

(1) 甲検事は、右2の第一次ないし第四次接見妨害において、福島地方検察庁次席検事が福島県警察本部等に対して行った前記(二)(3)の一般的指定処分による一般的禁止状態を積極的に容認してこれを利用したのみならず、昭和六一年一○月二四日には、前記2(一)(5)のとおりの一般的指定を行ったものであって、これらの行為は弁護人の接見交通権を侵害する違法な行為である。

(2) (第一次接見妨害の違法性)

原告佐々木が、前記2(一)のとおり昭和六一年一○月二四日午後三時二五分ころに接見の申出をした際に指定の要件がなかったことは、現に被疑者Aの取調べが行われていなかったこと、甲検事も具体的指定書の持参を条件に同日午後三時四五分以降の接見を承諾したことから明らかである。たとえ、同日午後四時四分から午後四時二○分までの間取調べが行われたとしても、検事の事情聴取によりただちに中断していることを考慮すると、午後三時二五分ころには指定の要件がなかったというべきである。甲検事が具体的指定権行使の要件もないのに原告佐々木の接見を拒否したのは違法である。

(3) (第二次接見妨害の違法性)

原告佐々木が前記2(二)のとおり同月二五日午後四時三五分ころに接見の申出をした際には、取調中であったとしても、午後五時六分には食事のために取調べを中断していること、原告佐々木が同日午後零時一○分ころには同日午後四時からの接見を事前に申し出て、甲検事は原告佐々木の午後四時以降の接見の申出に十分対応できる時間的余裕もあったことを考慮すると、午後四時三五分ころには、捜査の中断による顕著な支障はなかったというべきで、右時点では指定の要件がなかった。また、原告佐々木が、同日午後五時五○分ころに接見の申出をした際には、取調中ではなかったのであるから、指定の要件がなかったことは明らかである。

仮に、右時点で指定の要件があったとしても、検察官は、弁護人との協議が整わないときは、速やかに指定をすべきであり、甲検事が協議のために来庁してほしいとの一点張りで、具体的指定をしなかったことは違法である。また、同検事が原告佐々木に具体的指定書の持参を義務付けたことも違法である。

(4) (第三次接見妨害の違法性)

原告佐々木が、同月二七日午後四時一五分ころ、被疑者Aとの接見を申し出た際、同被疑者に対する取調べはされていなかったのであるから具体的指定の要件はなかった。

仮に、右時点において、被疑者Aに対する取調べが予定されていたとしても、取調担当官佐藤仁志は、右時点で福島署におらず、取調べを開始するまでに相当な時間的余裕があったのであり、現に、右佐藤は、同日午後五時から甲検事の事情聴取を受けた後、午後六時三五分から取り調べたにすぎないことを考慮すると、同日午後四時一五分ころに、捜査の必要性があったということはできない。

したがって、具体的指定権行使の要件がなかったにもかかわらず、甲検事が原告佐々木の接見を拒否したのは違法である。

(5) (第四次接見妨害の違法性)

原告佐々木が、同月三一日午後四時二五分ころに被疑者Aとの接見を申し出た際、被疑者Aに対する取調べは行われていなかったのであるから、具体的指定権行使の要件はなかった。

なお、右同日、被疑者Aの捜査官である佐藤仁志は宿直のため不在であり、被疑者Aに対する取調べはなされなかった。仮に、右時点で、被疑者Aに対する取調べが予定されていたとしても、同日午後五時以降に参考人に対する事情聴取をし、その結果に基づいて取調べをすることとなっていたにすぎないのであるから、被疑者Aに対する取調べまでは相当な時間的余裕があったことは明らかである。

したがって、右時点では、具体的指定の要件はなかったのであり、それにもかかわらず、甲検事が原告佐々木の接見を拒否したのは違法である。

4  (甲検事の故意、過失)

(一) 原告佐々木が、甲検事から接見交通権を侵害され、右侵害が違法である以上、甲検事に故意、過失があったものと推定される。

(二) 一般的指定処分が違法であることは、昭和五三年七月一○日の最高裁判決以降確立していた。したがって、前記3(四)(1)のとおり、甲検事が福島地方検察庁次席検事がなした一般的指定処分による一般的禁止状態を積極的に容認してこれを利用したり、自ら一般的指定をしたことにより原告佐々木の接見交通権を侵害したことについて、甲検事には故意、過失があった。

(三) 刑事訴訟法三九条三項の捜査の必要性の意味が、前記3(一)のとおりであることも、右最高裁判決以降確立していた。したがって、甲検事が、前記3(四)(2)ないし(5)のとおり捜査の必要性がないにもかかわらず、原告佐々木に対し検察庁への来庁を求めるなどしてその接見を拒否した処分は、右条項の解釈、適用を誤ったもので、その点に故意、過失がある。

(四) なお、昭和六一年一○月二五日午後四時三五分ころに、原告佐々木が接見の申出をした際に指定の要件があったとしても、原告佐々木との協議が整わないときは速やかに指定をすべき義務があることは、甲検事において容易に認識できたのであるから、右指定を行わず原告佐々木の接見交通権を侵害したことについて、同検事に故意、過失がある。

(五) さらに、甲検事は故意に接見妨害のための取調べを指示していた疑いがある。

5  (原告佐々木の損害)

本件接見妨害により侵害された接見交通権が持つ刑事手続上の重要性、原告佐々木が行う弁護士業務に対する侵害の程度、甲検事の検察官たる職務の性格など、諸般の事情を総合考慮したとき、原告佐々木が被った精神的苦痛を慰籍するために必要な金額は、金一○○万円を下らない。

(昭和六二年(ワ)第一三号事件)

6  (当事者)

(一) 原告齊藤正俊(以下「原告齊藤」という。)は福島県弁護士会所属の弁護士であり、被疑者B(以下「被疑者B」という。)の恐喝被疑事件(被疑事実は別紙被疑事実二記載のとおり。)の弁護人であった。

(二) 被告は、右恐喝被疑事件に関し、福島地方検察庁検察官乙(以下「乙検事」という。)に右事件の捜査及び被疑者Bの勾留の職務を遂行させ、公権力の行使に当たらせていた。

7  (本件接見妨害)

(一) 被疑者Bは、昭和六一年一○月二三日逮捕され、同月二五日より代用監獄福島署に勾留され、併せて刑事訴訟法八一条の接見等の禁止決定がなされた。原告齊藤は、同月二三日、被疑者Bから弁護人に選任され、その旨の弁護人選任届を提出していた。

(二) 原告齊藤は、同月二七日午後二時過ぎころ、福島署警務課に電話で被疑者Bとの接見を申し入れたところ、電話の相手は午後三時ころ来て下さいとの返事をした。

(三) 原告齊藤は、同日午後三時ころ、福島署二階の留置事務室に赴き、鴫原警部補に対し被疑者Bとの接見の申出をした。鴫原警部補は、原告齊藤に対し被疑者Bについて接見禁止決定がされていることを告げたうえ、検察官から具体的指定書をもらってくるようにと述べた。原告齊藤は接見禁止決定がされていることは知らなかった旨鴫原警部補に伝えたうえ、あらためて被疑者Bとの接見を申し入れた。鴫原警部補は乙検事の意見を聞いてみると言って乙検事に電話し、同検事に事情を話したうえ、原告齊藤と電話を交替した。

(四) 乙検事は、原告齊藤に対し、被疑者Bは接見禁止決定がされているので指定書を取りに来るようにと述べ、原告齊藤が、弁護人との接見は禁止されていないこと、過去に福島地方検察庁本庁の接見禁止事件で指定書の持参なしに接見をしたことがあることなどを告げて、接見を求めたが、乙検事は、手続きの明確化を理由に具体的指定書の受取りを求め続けた。その間、原告齊藤は、鴫原警部補に対し被疑者Bは取調中なのか聞いたところ、同警部補は取調中ではないとの返事をしたので、原告齊藤は、乙検事に対し、右の事実を告げて、捜査の必要性がないのであるから自由に接見ができるはずであるとの説得をした。

(五) 鴫原警部補は、そのころ、福島署刑事二課長本田貞好警部(以下「本田警部」)という。)に連絡をとり、被疑者Bの接見について支障がないか確認したところ、本田警部は、現在取調中であるが、始まったばかりなので特に支障がないとの返事をした。そのため、鴫原警部補は、乙検事に対し、被疑者Bは現在取調中ではない旨の連絡をした。

(六) 原告齊藤がその後も乙検事を説得した結果、同検事は応答に窮し、鴫原警部補と電話を交替するように求めた。そして、乙検事は、鴫原警部補に対し、電話で、同日午後三時から午後五時までの間の二○分間会わせてやって下さいと連絡し、口頭による接見指定をした。なお、この時刻は午後三時一○分であった。

(七) 鴫原警部補は右の指示を受け、原告齊藤に対しこれから二○分間接見してもらうと述べ、本田警部に対しても接見させることになったとの連絡をした。そして、鴫原警部補は原告齊藤を接見室に案内し、本田警部も被疑者Bの取調官に対し接見の準備を命じた。その結果、原告齊藤は同日午後三時一五分ころから福島署三階の接見室において被疑者Bと相対して接見を始めた。

(八) ところが、その後、乙検事は本田警部及び鴫原警部補に電話をし、至急原告齊藤と連絡をとりたいと言った。そのため、本田警部は、原告齊藤が接見を始めて数分後に接見室に来て、検察官から電話が入っているので出てほしいと告げた。

(九) 原告齊藤が電話に出たところ、乙検事は原告齊藤に対し、あとでよいから指定書を取りに来てほしいと求め、原告齊藤はそんなことはできないと断ったが、乙検事はなおも指定書の受取りを強要したため、原告齊藤は強く抗議した。そして、その後も乙検事が指定書の受取りにこだわり続けたため、原告齊藤と同検事との話合いは平行線のまま推移し、原告齊藤の接見の再開は認められなかった。

(一○) なお、被疑者Bは、その後午後三時一五分から午後三時三○分まで接見室に留め置かれた。

8  (本件接見妨害の違法性)

(一) 昭和六二年(ワ)第一二号事件請求原因3(一)のとおり。

(二) 同(二)のとおり。

(三) 同(三)のとおり。

(四) (本件接見妨害の違法性)

(1) 乙検事は、本件接見妨害において、右(二)(3)の一般的指定処分による一般的禁止状態を積極的に容認してこれを利用したのみならず、昭和六一年一○日二七日に、原告齊藤に対し、具体的指定書の受取り、持参をしない限り、接見を許可しないとの一般的指定処分を行ったものであって、これらの行為は、弁護人の接見交通権を侵害する違法な行為である。

(2) 原告齊藤が接見の申出をした右同日午後三時ころには被疑者Bが取調中であったとしても、本田警部も乙検事も捜査の中断に支障がないと考えていたのであるから、具体的指定権行使の要件はなかった。しかも、被疑者Bは右時点では取調室で待機していた状態で取調べは開始されていなかった可能性もあり、その場合にはなおさら具体的指定権行使の要件がない。したがって、乙検事が右の点の判断を誤り具体的指定権を行使したのは違法である。

(3) さらに、原告齊藤の右時点の接見申出は、同月二三日に弁護人に選任されてから初めての接見申出であり、かつ被疑者Bの勾留決定後第一回目の接見申出であったのであるから、このような場合には、ただちに接見を認めるべきであって、乙検事が具体的指定権を行使したのは違法である。

(4) 乙検事は口頭による具体的指定処分をし、原告齊藤が接見を開始した後、その処分を撤回して接見を中断させたものである。しかし、具体的指定処分は行政処分であって、公益上その効力を存続せしめえない新たな事由が発生しない限り撤回できないうえ、右の撤回は信義則に反するものであるから、違法である。

(5) また、右中断の後、被疑者Bは同月二七日午後三時一五分から午後三時三○分まで接見室におり、同日午後三時五○分までは在監していたのであるから、その間捜査の必要性はなく、乙検事が具体的指定書の受取り持参を強要して接見の再開を認めなかったのは違法である。

9  (乙検事の故意、過失)

(一) 原告齊藤が、乙検事から接見交通権を侵害され、その侵害が違法である以上、乙検事に故意、過失があったものと推定される。

(二) 前記8(二)のとおり一般的指定処分は違法であるのに、乙検事は刑事訴訟法三九条三項の解釈を歪曲したうえ、右8(四)(1)のとおり一般的指定処分による一般的禁止状態を利用し、又は自ら一般的指定処分をなしたのであるから、この点について同検事には故意、過失がある。

(三) 刑事訴訟法三九条三項の捜査の必要性の意味が、前記8(一)のとおりであることは、昭和五三年七月一○日の最高裁判決以降確立していた。そして、原告齊藤が被疑者Bとの接見を申し出た際、具体的指定の要件がなかったことは、前記8(四)(2)のとおりである。したがって、乙検事は具体的指定権行使の要件がないことを知り、もしくは知りえたのであるから、右条項の解釈、適用を誤り、具体的指定権を行使したことに、故意、過失がある。

(四) 乙検事は、原告齊藤の申し出た接見が被疑者Bの勾留決定後初めての接見であり、ただちに接見を認めるべきであることを知り、又は知りえたにもかかわらず、この点の判断を誤り具体的指定権を行使したのであって、この点に故意、過失がある。

(五) 乙検事は、口頭による具体的指定処分が撤回しえないものであることを知り、もしくは知りえたにもかかわらず、右の処分を撤回したのであるから、この点について故意、過失がある。

(六) 乙検事は、原告齊藤の接見中断後、捜査の必要性がなく、接見の再開を認めるべきことを知り、もしくは知りえたにもかかわらず、接見の再開を認めなかったのであるから、この点について故意、過失がある。

10  (原告齊藤の損害)

本件接見妨害により侵害された接見交通権が持つ刑事手続上の重要性、原告齊藤が行う弁護士業務に対する侵害の程度、乙検事の行う職務の性格など、諸般の事情を総合考慮したとき、原告齊藤が被った精神的苦痛を慰藉するために必要な金額は、一○○万円を下らない。

(結論)

よって、原告佐々木及び原告齊藤は、被告に対し、国家賠償法一条に基づく損害賠償として、それぞれ一○○万円及びこれに対する各不法行為の後の日である昭和六二年二月一四日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 請求原因に対する認否及び被告の主張〈省略〉

第三 証拠関係 〈省略〉

理由

(昭和六二年(ワ)第一二号事件)

一  請求原因1(当事者)の事実は当事者間に争いがない。

二  同2(本件接見妨害)の事実について検討する。

1  同2(一)(第一次接見妨害)の事実について判断する。

(一)  同2(一)の事実のうち、(1)(被疑者Aの逮捕、勾留、弁護人の選任)の事実、同(4)の事実のうち、原告佐々木が電話で甲検事に対し接見の申入れをしたこと、原告佐々木が甲検事に対し電話で留置官に指示してほしいと申入れをしたこと、これに対し甲検事が、原告佐々木の事務員に電話で連絡して指定書を取りに来させてほしい、接見は午後三時五○分から一五分間ではどうかと言ったこと、同(6)の事実のうち、原告佐々木が第一次準抗告の申立をしたこと、甲検事が右準抗告の手続きにおいて、一般的指定をした事実はない旨述べたこと、本件につき一般的指定がなされていないとの理由で右申立てが棄却されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二)  右の争いのない事実と、〈証拠〉を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告佐々木は、昭和六一年一○月二四日午後三時一五分ころ、あらかじめ電話で福島署の鴫原警部補に対しこれから被疑者Aとの接見に行く旨予告したうえ、同日午後三時二五分ころに、福島署に赴き、同警部補に対し接見の申入れをした。同警部補は、被疑者Aについては接見禁止決定がされていることを伝え、原告佐々木に指定書を持参しているか尋ねた。原告佐々木は、鴫原警部補に被疑者Aが在監しているか尋ね、在監しているとの答えだったので、在監しているならば指定書がなくとも接見できるはずであると申し入れたが、鴫原警部補は、検察庁に電話したうえ、原告佐々木と電話を交替した。

(2) 原告佐々木は、電話で甲検事に対し、被疑者Aの妻からの依頼であること、被疑者Aが在監していることを伝えたうえ、甲検事に対し接見を申し入れた。これに対し、甲検事は、接見することはかまわないが、指定書を取りに来てもらいたいと言った。原告佐々木は、電話で留置官に指示してほしいと申し入れたが、甲検事は、原告佐々木の事務員に指定書を取りに来させてほしい、接見は午後三時五○分から一五分間ではどうか、などと言った。原告佐々木は、四時から用事があることを告げ、あとから事務員に指定書を取りに行かせるから、すぐに接見させてほしいと申し入れた。甲検事は、原告佐々木の事務員が指定書を受領するために必要な時間を一○分と見たうえで、原告佐々木が事務員に連絡して指定書を取りに来させることを前提に、午後三時四五分から一五分間にすると言った。そのときの時刻は午後三時三五分であった。原告佐々木は、甲検事に対し、一般的指定をしているのかと尋ねたところ、甲検事が肯定したので、それならば準抗告をすると言って、電話を切った。

(3) 原告佐々木は同日午後四時五○分に一般的指定の取消しを求める準抗告の申立てをしたが、甲検事は裁判官に対し一般的指定をしていないことなどを報告したため、右準抗告は、一般的指定がなされていないことを理由に棄却された。

(三)  右認定に反する証拠について検討する。

(1) 証人甲は、原告佐々木が電話で被疑者Aの妻からの依頼であると述べた事実はないとの供述をしている。そして、原告佐々木が検察庁に来庁した場合には、弁護人選任権者からの依頼があることの疎明を求めるつもりであったとの供述をしている。

しかし、甲検事は、指定書を受け取るために検察庁に来庁するのは原告佐々木の事務員でもよいとしていたことを考慮すると、甲検事は、原告佐々木から、被疑者Aの妻からの依頼である旨の説明を聞いて、弁護人選任権者からの依頼があることについては、それ以上の疎明は必要ないと判断したものと推認するのが合理的である。そうすると、原告佐々木が被疑者Aの妻からの依頼であるとの説明をしたとする前掲甲第三○号証(原告佐々木の陳述書)の内容は措信することができ、これに反する甲証人の右供述は措信できない。

(2) 証人甲は、原告佐々木は甲検事に対し電話による指定をするように求め、同検事がこれを拒否したところ、電話による指定をしてもらえないのならば準抗告をすると言ったのであって、一般的指定をしているのかとの質問に対して甲検事が肯定したから、準抗告をすると言ったのではないとの供述をしている。

しかし、〈証拠〉によれば、甲検事は、同日午後四時五○分に、本件については一般的指定がされていないことを供述内容とする鴫原警部補からの電話聴取書を作成し、原告佐々木からの準抗告に備えていたこと、右時刻には原告佐々木の第一次準抗告の申立ては裁判所に提出されたばかりで、甲検事はその内容を知らなかったこと、以上の事実が認められる。そうすると、甲検事は、準抗告申立てが、一般的指定処分の取消しを求める内容となることをあらかじめ予想していたことになるから、原告佐々木から、一般的指定をしているならば準抗告をすると言われたと認めるのが合理的であって、右(二)(2)の認定事実に副う甲第三○号(原告佐々木の陳述書)の記載内容は措信できる。したがって、これに反する甲証人の右供述は措信することができない(なお甲証人の証言によれば、甲検事は原告佐々木との右電話による応対中に、同原告から一般的指定をしているのかと質問され、錯覚により「はい」と肯定する答えをしたことが認められる。しかし甲検事が真実本件について一般的指定をしていたことを認めうべき証拠はない。)。

(3) そして、ほかに右(二)の認定を覆すに足る証拠はない。

2  請求原因2(二)(第二次接見妨害)の事実について判断する。

(一)  同2(二)(3)の事実のうち、原告佐々木が、昭和六一年一○月二五日、福島署の警察官に対し被疑者Aとの接見を申し入れたうえ、電話で甲検事に対し右接見を申し入れたこと、甲検事は、協議のために検察庁に来庁願いたいと言ったこと、原告佐々木が具体的指定書の持参を求める根拠を問い、甲検事が、接見事務の明確化のためであるとの回答をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二)  右の争いのない事実と〈証拠〉を総合すると、以下の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 原告佐々木は、昭和六一年一○月二五日(土曜日)午前一一時すぎに鴫原警部補に対し電話で、本日午後四時ころ被疑者Aと接見したい旨申し入れた。鴫原警部補は、執務時間外となるが、申込が時間内なので便宜を図る旨答えた。

(2) 原告佐々木は、同日午後零時一○分ころ甲検事に電話で、一般的指定をしていないならば、本日午後四時から接見をしたいとの申入れをしたが、甲検事は、検察庁に具体的指定書を取りに来てほしいと答えた。

(3) 原告佐々木は、同日午後四時三五分ころ福島署に赴き、当直の警察官に対し被疑者Aとの接見を申し出たが、警察官は検察官の指示を受けてほしいと答えた。原告佐々木は、電話で甲検事に対し被疑者Aとの接見を申し入れたが、甲検事は、「協議のために検察庁に来ていただきたい。指定書を取りに来ていただきたい。」と答えた。原告佐々木は、「指定書を持参しない限り接見を認めないのか。」と聞いたが、甲検事はそれには答えず、「現在被疑者は取調中なはずであるから、確認してほしい。」と言ったので、原告佐々木は、警察官に被疑者Aが取調中であることを確認したうえ、さらに甲検事に対し接見の具体的指定をするように求めたが、同検事は、「接見の指定に関し協議したいので検察庁に来てもらいたい。」と答えた。原告佐々木は、あらかじめ接見の申入れをしているのだから取調べを一時中断して会わせてほしい、午後五時過ぎから明渡執行の立会いをする必要があるので電話で指定してほしいと要望したが、同検事は協議及び具体的指定書の受取りのための来庁を求めるのみであった。原告佐々木は具体的指定書の持参を求める根拠を聞いたところ、同検事が接見事務の明確化のためであるとの返事をしたので、原告佐々木は本件については電話による指定で十分である旨説得したが、甲検事の返事は変わらなかった。そして甲検事が電話による指定をしないので、原告佐々木は甲検事に対し明渡執行の立会いに行ってからまた電話すると言って、同日午後五時五分過ぎに電話を切った。

(4) 原告佐々木は、明渡執行が終了した後、同日五時五〇分ころ再度福島署を訪れ、電話で甲検事に対し、電話による指定を求めたが、甲検事は協議のための来庁を求め、右(3)と同様のやりとりに終始したため、原告佐々木は、甲検事のほうで十分検討のうえ指定されるよう、しばらく福島署で待機しているので、連絡されたいと要望して電話を切った。

(5) その後、同日午後六時一〇分ころ、甲検事は、福島署に居る原告佐々木に電話をし、監獄法施行規則の時間内であれば、原告佐々木と時間を調整して接見の日時を指定したいので、指定書を取りに来てほしいこと、そのため検察庁で二、三〇分待機していると伝えた。原告佐々木は、電話による協議をなし、捜査の必要性があるならば、具体的指定をしてほしいと申し入れ、電話による協議ができない理由を尋ねたが、甲検事はそれには答えず、具体的指定もなさなかった。原告佐々木は、午後七時ころまで福島署に居たが、それ以上とどまっても接見ができないと判断して退去した。

(6) 原告佐々木が右(4)のとおり接見の申出をした際、被疑者Aの取調べは行われていなかったが、原告佐々木が甲検事と交渉していた間の午後六時二三分に取調べが再開され、原告佐々木が福島署を出た直後の午後七時三分に右取調べが終了した。

(三)  請求原因2(二)(7)の事実(原告佐々木が第二次準抗告の申立てをしたこと、及び接見を拒否する旨の処分があったものと解することができないことを理由に右申立てが棄却されたこと)は、当事者間に争いがない。

(四)  同(8)の事実のうち、鈴木弁護士が同年一〇月二七日午前九時三〇分ころ、甲検事に対し電話で接見の申入れをし、同日午後零時ころに甲検事から具体的指定書を受け取り、同日午後零時三〇分ころ、被疑者木村と接見したことは、当事者間に争いがなく、その余の事実については、〈証拠〉により認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

3  請求原因2(三)(第三次接見妨害)の事実について判断する。

(一)  同2(三)(3)の事実のうち、原告佐々木が甲検事に対し電話で接見させてほしいと申し入れたこと、途中で鴫原警部補と電話を交替したことは当事者間に争いがない。

(二)  右の争いのない事実と、〈証拠〉を総合すると、請求原因2(三)(1)ないし(3)の事実が認められる。

(三)  右の認定に反する証拠について検討する。

(1)証人鴫原満穂は、原告佐々木が昭和六一年一〇月二七日午後四時ころに、電話で被疑者Aの取調べ状況を確認した際、被疑者Aが在監している旨を答えたが、取調べをしていないと答えたことはないとの供述をしている。また〈証拠〉によれば、鴫原警部補が右同日電話で甲検事に対し、原告佐々木に対して被疑者Aの取調べが終了したなどという趣旨の言葉は言っておりませんとの報告をしたことが認められる。

しかし、原告佐々木本人尋問の結果により、原告佐々木と鴫原警部補との右時点における会話を録音した録音テープの内容を記載した書面であることが認められる前掲甲第三四号証によれば、鴫原警部補は「いま時点で調べていません。いま終わったところです。」と答えたことが認められるのであって、鴫原証人の右供述及び電話による報告(甲第一〇号証の六)の内容は措信することができない。

(2)証人甲は、右同日午後四時三〇分ころに原告佐々木が電話で接見の申出をした際、捜査の必要性の要件が満たされる蓋然性が高いと判断していたが、確認する必要があると考え、捜査の必要性が確実に認められるかはっきりしていないと述べたが、「現在捜査の必要があるかどうか分からない。」とは述べていないとの供述をする。

しかし、甲証人の右同日の記憶は全体的にあいまいであるのに対し、〈証拠〉によれば、原告佐々木は、右同日の第三次準抗告の申立てを行ったときから、一貫して甲検事が、「現在捜査の必要があるかどうかわからない。」と述べたとしているうえ、証人鴫原満穂も、甲検事が「捜査の必要性があるかどうか分からないから、とにかく来てもらってほしい。」と言っていたとの証言をしていることを考慮すると、甲証人の右供述は措信することができない。

(3) そして、ほかに右(二)の認定を覆すに足る証拠はない。

(四)  同(4)の事実(原告佐々木が第三次準抗告の申立てを行ったこと、右申立てが、処分があったとはいえないとの理由で棄却されたこと)は、当事者間に争いがない。

(五)  同(5)の事実のうち、原告佐々木が、検察官作成の指定書を持参したうえ、同月二九日午後四時四〇分から午後五時までの間、被疑者Aとの接見をした事実は当事者間に争いがなく、その余の事実については、〈証拠〉により、これを認めることができる。証人甲の供述中には、右同日午前中に、原告佐々木から電話があった事実を否定する部分もあるが、右電話があったかもしれないとの供述もあり、あいまいで、原告佐々木本人尋問の結果に照らし、措信することができない。

4  請求原因2(四)(第四次接見妨害)の事実について判断する。

(一)  同2(四)(2)の事実のうち、原告佐々木と甲検事との電話の途中で、原告佐々木が会田警部と電話を交替した事実は当事者間に争いがない。

(二)  右の争いのない事実と、〈証拠〉によれば、請求原因2(四)(1)ないし(4)の事実が認められる。

(三)  右認定に反する証拠について検討する。

(1) 〈証拠〉によれば、昭和六一年一一月四日に、甲検事が原告佐々木の第四次準抗告申立てに関する裁判官の事情聴取に対し、甲検事は、同年一〇月三一日に原告佐々木と電話で話した際、検察庁へ指定書を取りに来てほしいとは言っていないと述べたことが認められる。

しかし、同検事は、同時に右事情聴取において、原告佐々木から「指定書を取りに行かなければ会わせないという処分なのか。」との質問を受けたことは認めているから、その質問の前に甲検事が指定書を検察庁まで取りに来てほしいと述べたと認めるのが合理的である。したがって、甲検事が指定書を検察庁に取りに来てほしいと述べたとする前掲甲第三三号証(原告佐々木の陳述書)に照らし、右事情聴取における甲検事の供述は措信することができない。

(2) 証人甲は、同年一〇月三一日に原告佐々木と電話で話した際、留置官が会わせると言うならば会ってもいいのかという原告佐々木の問いに対し、検事の身柄であるから検事の指示がなければだめであるとの回答をしたことはないとの供述をしている。また、〈証拠〉によれば、甲検事は、同年一一月四日の裁判官の事情聴取の際にも、右供述のとおりの供述をしていたことが認められる。

しかし、〈証拠〉によれば、原告佐々木は同年一一月三日の第四次準抗告の申立ての際から、一貫して甲検事が、「検事の身柄であるから、検事の指示がなければ会ってはだめである。」と言ったとの主張をしている。そして、証人甲も、「私(検事)の身柄であるから」と言ったことまでは認めているから、原告佐々木の右問いに対する回答としては、その後に、検事の指示がなければ会ってはだめであるとの言葉が続くほうが自然で、そのとおり述べたとする前掲甲第三三号証の内容は措信することができ、これに反する右甲証人の供述及び甲第一一号証の八中の供述は措信することができない。

(3) 会田警部の供述内容を記載した前掲乙第七号証中には、同警部が原告佐々木に対し、被疑者Aに会わせないとは言っていないとの記載部分がある。

しかし、同証人は、甲検事の意見に従うと述べたと証言しているところ、甲検事が、同検事の指示がない限り会ってはだめであるとの態度であったことは右(2)のとおりであり、会田警部も、甲検事の指示がない以上、「会わせない」と言ったと認めるのが合理的で、そのとおり言ったとする甲第三三号証の内容は措信でき、これに反する乙第七号証の記載内容は措信することができない。

(4) そして、ほかに右(二)の認定を覆すに足る証拠はない。

(四)  請求原因2(四)(5)の事実(原告佐々木が第四次準抗告の申立てをなし、右申立が一部認められたこと)は、当事者間に争いがない。

三  請求原因3(本件接見妨害の違法性)の主張について判断する。

1  同3(一)(刑事訴訟法三九条三項の捜査の必要性の意味)について検討する。

(一)  刑事訴訟法三九条一項が規定する弁護人等との接見交通権は、憲法三四条前段に由来する権利であって、身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つである。同法三九条三項が規定する捜査機関の接見等の日時等の指定は、あくまでも必要やむをえない例外的措置であって、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調中であるとか、被疑者をして実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議をしてできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防禦のため弁護人等と打ち合わせることができるような措置をとるべきである(最高裁昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決・民集三二巻五号八二〇頁参照)。

(二)  したがって、同法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」について、罪証湮滅の防止をも含む捜査全般の必要性をいうと解することはできない。捜査全般の必要性であると解するならば、「捜査のための必要」の内容が広範多岐にわたりその存否の判断の合理性についての客観的担保が極めて困難となり、結局捜査官が「捜査のため必要がある。」と認めた事件については常に捜査官において接見等の日時等の指定が可能となる。殊に刑事訴訟法八一条に基づき接見禁止の処分を受けている事件のほとんどは証拠湮滅の疑のある事件であるから、このような事件にあっては、被疑者と弁護人等との接見は事実上原則として禁止され、接見等の日時等の指定は、その禁止の一部解除に等しいこととなって、右のとおり同法三九条三項の接見等の日時等の指定が必要やむをえない例外的措置であることに反する結果となるからである。

(三)  そうすると、同法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」に該当するかどうかは、「現に被疑者を取調中であるとか、被疑者をして、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある」ときに該当するか、もしくはそれに準じる場合であって、しかも「捜査の中断による支障が顕著な場合」に限定されるから、そのような場合に該当するか否かの判断については、捜査官に裁量の余地はなく、裁判所はその判断の適法性について直接判断することができるというべきである。

2  請求原因3(二)(一般的指定制度の違法性)について、検討するに、同(二)(3)の事実のうち、福島地方検察庁次席検事が昭和六一年当時福島県警察本部に対し、弁護人等から接見禁止になっている被疑者との接見の申出がされた場合には主任検察官に右申出のあったことを連絡することを求める旨の通知を行っていたことは当事者間に争いがない。

右のような通知は、その内容からすると、接見の申出が直接監獄の長に対してなされた場合に、検察官において接見指定の要否を判断する機会を確保するためになされた内部的な事務連絡であると解され、その要否の判断が適切になされてさえいれば、右通知自体を違法な処分であるとすることはできない。

3  そこで、以上の判断を前提に、以下、請求原因3(四)(本件接見妨害の違法性)(2)ないし(5)について判断することとする。

(一)  請求原因3(四)(2)(第一次接見妨害の違法性)について検討する。

(1) 〈証拠〉によれば、原告佐々木が、昭和六一年一〇月二四日午後三時二五分ころ、鴫原警部補に被疑者Aとの接見を申し入れたうえ、電話で甲検事に接見を申し入れた際、被疑者Aは監房に居て取調中ではなかったことが認められる。

(2) また、原告佐々木が右のとおり甲検事に対して接見を申し入れたところ、甲検事は、同日午後三時三五分ころに、原告佐々木の事務員が指定書を検察庁に赴いて受領するために要する時間を一〇分間と見たうえで、原告佐々木と被疑者Aとの接見については、原告佐々木が事務員に指定書を受け取りに来させることを前提に午後三時四五分から一五分間にすると述べたことは、前示二1(二)(2)のとおりである。そうすると、捜査官である甲検事は、原告佐々木が事務員を通じて指定書を受領することにのみこだわっていたのであって、同原告が被疑者Aと接見すること自体については捜査上支障がないと判断していたものと推認することができる。したがって、右時点においては捜査官の判断においても刑事訴訟法三九条三項の規定する「捜査のため必要があるとき」の要件が存在するとはいえなかったということができる。

(3) そうすると、右同日午後三時三五分には、右条項の接見指定の要件がなかったのであり、それにもかかわらず同項の指定権を行使しようとして原告佐々木に対し指定書の受取りを求め、同原告と被疑者Aとの接見をただちに認めなかった甲検事の行為には違法性がある。

(4) なお、〈証拠〉によれば、被疑者Aの取調べを担当していた警察官佐藤仁志は、右同日午後三時三五分ころに福島署に赴いて被疑者Aを取り調べるため、取調室が空くのを待っていたことが認められる。

しかし、実際に取調べが開始されたのが同日午後四時四分であったこと、右取調べは一六分後の午後四時二〇分に中断されたことは被告が自認するところであるから、右捜査が開始される前に原告佐々木が被疑者Aと接見することによって、捜査の中断による顕著な支障が生じたとは認め難いのであって、右の認定事実により、右(3)の判断が左右されるものではない。

(5) また、前示二1(三)(1)のとおり、甲検事は、弁護人選任権者からの依頼があることについては、原告佐々木に対し検察庁への来庁を求めて疎明させる必要があるとは考えていなかったものと解され、右の疎明の必要性を理由に甲検事の行為が違法ではないということはできない。

(6) 被告は、原告佐々木と被疑者Aとの接見が無制約に行われたならば、被疑者Aと売春婦らとの供述が相互に伝達され、その結果罪証湮滅工作がされるなどの事態にもなりかねないことを理由に接見指定の要件があったとの主張をするが、接見指定の要件である「捜査のため必要があるとき」に、罪証湮滅の防止を含めることができないことは、前示1(二)のとおりであり、被告の右主張は失当である。

(7) よって、甲検事が原告佐々木の右同日午後三時三五分ころの接見申出に対し、ただちにこれを認めなかった行為は違法といわなければならない。

(二)  請求原因3(四)(3)(第二次接見妨害の違法性)について判断する。

(1) まず、〈証拠〉によれば、原告佐々木が同年一〇月二五日午後四時三五分ころに被疑者Aとの接見を申し出た際、被疑者Aに対する取調べがなされていたことが認められる。したがって、甲検事が、右の接見申出について、具体的指定権を行使し、接見の日時等を指定することは違法とはいえない。原告佐々木があらかじめ同日午後四時ころに接見をしたい旨申し出ていたことは、前示二(二)(1)及び(2)のとおりであるが、それだけで捜査の中断による支障が顕著ではないということは困難である。

また、甲検事が、原告佐々木との協議及び指定書の受領のため原告佐々木に対し、検察庁への来庁を求めることも、ただちには違法とは言い難い。刑事訴訟法三九条三項は、検察官の指定の方式について特に定めていないから、検察官が手続の明確化のために書面による指定の方式を選択し、その指定書を弁護人等に交付するため、弁護人等の協力を要請すること自体は許されるのである。もっとも、これにより弁護人等が指定書を受領するために検察庁に出頭することを義務付けられるものとは解されないから、弁護人等が右協力を拒否した場合には、検察官は、別途の方法により指定書を弁護人等に送付することとなるが、これによる接見の遅れは、送付事務としての合理的な範囲において、弁護人等において受忍すべきものというべきである。

そして、前示二2(二)(3)の事実によれば、右の甲検事の要請について、原告佐々木と甲検事とが交渉している間に、原告佐々木が、明渡執行の立会いのために、右交渉を中断したことが認められるのであるから、右の中断までの甲検事の行為に違法性を認めることはできない。

(2) なお、右時点での取調べが、原告佐々木と被疑者Aとの接見を積極的に妨害するためになされたものであるとの認定をすることはできない。

(3) 次に、原告佐々木が、甲検事との交渉を一旦中断し、午後五時五〇分ころに再度被疑者Aとの接見を申し出た際には、被疑者Aに対する取調べは行われておらず、それが再開されたのが同日午後六時二三分であったことは、前示二2(二)(6)のとおりである。したがって、午後五時五〇分の時点では「捜査のため必要があるとき」の要件が存在したとは言い難い。

(4) しかし、右同日が土曜日であったことは、前示二2(二)(1)のとおりであり、〈証拠〉によれば、福島署の土曜日の執務時間が午後零時までであったことが認められる。したがって、原告佐々木の午後五時五〇分の右接見申出が執務時間外になされたことは明らかである。

監獄法施行規則一二二条は、接見は執務時間内でなければこれを許さない旨規定しているから、弁護人等が右執務時間外に接見を申し出た場合に、これを拒絶したからといって違法となるわけではない。ただし、右監獄法施行規則の規定は、留置施設の監護態勢、保安態勢上の必要から設けられた規定であるから、ただちに接見を認めなければ留置人の防禦権に支障がある場合で、かつ留置施設の監護態勢、保安態勢上の支障がないと認められる特段の事情がある場合には、右接見を拒否することが違法となる。

原告佐々木が同年一〇月二五日午前一一時過ぎに鴫原警部補に電話で、同日午後四時ころに被疑者Aと接見したい旨申し入れたところ、鴫原警部補が、申込みが時間内なので便宜を図る旨答えたこと、原告佐々木が右同日午後四時三五分ころに福島署に赴いたところ、警察官は、検察官の指示を受けてほしいと答えたこと、甲検事は指定権を行使しようとして原告佐々木に検察庁への来庁を求めたことはいずれも前示二2(二)(1)及び(3)のとおりである。そうすると、原告佐々木の右時点での接見申入れについては、執務時間外であることを理由に拒絶されたわけではないから、右時点では接見について監護態勢及び保安態勢上の支障はなかったものと推認することができる。だが、〈証拠〉によれば、原告佐々木が同日午後五時五〇分ころに、再度被疑者Aとの接見を申し出たところ、福島署の執務態勢は四時三五分の時点とは異なり、原告佐々木との応対も十分になされていなかったことが認められ、さらに、甲検事においても、監獄法施行規則の時間内での接見の日時を指定したいと言ったことは前示二2(二)(5)のとおりであって、原告佐々木の右接見申出が執務時間外のものであることを理由の一つとして右時点での接見を認めないとの態度を示したというべきである。したがって、右時点では接見が認められるような監護態勢及び保安態勢が維持されていたものと認めることはできない。

以上の検討によれば、同日午後五時五〇分以降の原告佐々木の接見申出に対し、甲検事がこれを認めなかったからといって、その行為が違法であるということはできない。

(5) よって、同月二五日の甲検事の行為に違法性を認めることはできない。

(三)  請求原因3(四)(4)(第三次接見妨害の違法性)について判断する。

(1) 〈証拠〉によれば、原告佐々木が同年一〇月二七日午後四時一五分ころに、被疑者Aとの接見を申し出た際、被疑者Aは監房に居て取調べ中ではなかったことが認められるから、右時点では刑事訴訟法三九条三項の接見指定権行使の要件はなかった。したがって、前示二3(二)のとおり、甲検事が、捜査の必要性については分からないとするのみで、右要件についての検討をすることもないまま、指定権を行使しようとして原告佐々木に対し検察庁への来庁を求め、原告佐々木の接見をただちに認めなかった甲検事の行為は、違法であるといわざるをえない。

(2) なお、〈証拠〉によれば、右同日午後、被疑者Aの取調べを担当していた警察官佐藤仁志が、被疑者Aが経営していたホテルの支配人Cの取調べを行い、同日午後四時半ころまで右取調べをした後、同日午後五時ころから、右取調べ結果に基づいて、被疑者Aを取り調べる予定であったことが認められる。

しかし、〈証拠〉によれば、右佐藤は、甲検事の事情聴取を受けるべく、被疑者Aの取調べを開始する前に検察庁に来たため、実際に被疑者Aの取調べを開始したのは、同日午後六時三五分であったことが認められる。そうすると、原告佐々木が同日午後四時一五分ころに接見の申出をした際、被疑者Aを取り調べる予定があったとしても、右時点で原告佐々木の接見を認めることによる捜査の中断による支障が顕著であったということはできない。したがって、右認定事実は、右(1)の判断を左右するものではない。

(3) なお、被告は、原告佐々木の右時点における接見を無制限に認めるならば、その接見を通じて売春婦や右Cの供述内容が被疑者Aに伝達され、捜査計画の目的を達成することが困難となる旨の主張をするが、刑事訴訟法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」の要件が、罪証湮滅の防止を含む捜査全般の必要性であると解することができないことは、前示1(二)のとおりであって、被告の右主張は失当である。

(4) また、〈証拠〉によれば、福島署の執務時間は、平日は午後五時までであることが認められるから、原告佐々木の右接見申出が執務時間内になされたことは明らかである。

(5) よって、原告佐々木の右同日午後四時一五分の接見申出に対し、甲検事が捜査の必要性について検討しないまま、右申出をただちに認めなかった行為は違法である。

(四)  請求原因3(四)(5)(第四次接見妨害の違法性)について判断する。

(1) 原告佐々木が、同年一〇月三一日午後四時二五分ころに、被疑者Aとの接見を申出た際、被疑者Aが監房に居て、取調中でなかったことは、前示二4(二)のとおりであるから、右時点では、接見指定権行使の要件はなく、前示二4(二)のとおり、甲検事が指定権を行使しようとして、原告佐々木に対し指定書の受取りのための来庁を求め、これにこだわって、原告佐々木の接見申出をただちに認めなかった行為は、違法である。

(2) 〈証拠〉によれば、売春の相手客となった者が岩手県一関内の食品会社従業員であるとの可能性が高いと判断されたため、右同日飯坂警察署の警察員が一関市に派遣され、同日午後四時半ころから午後五時ころまでに右従業員に対する取調べを開始し、その取調結果に基づいて被疑者Aを取り調べる予定があったことが認められる。

しかし、〈証拠〉によれば、被疑者Aの取調べを一貫して担当していた警察官佐藤仁志は、右同日県警本部の宿直のため福島署には居なかったこと、そのため同人による取調べはできる状態ではなく、被疑者Aの取調べが行われるとしても別の捜査官によらざるをえなかったこと、被疑者Aに対する取調べは実際には同日午後三時四六分以降行われなかったこと、以上の事実が認められる。そうすると、右のとおり被疑者Aを取り調べる予定があったとしても、その予定は不確実なものであったというほかない。しかも、その取調べが行われるとしても、午後四時半以降に開始される従業員に対する取調べの後に行うこととされていたのであるから、原告佐々木が接見を申し出た午後四時二五分ころにはなお時間的余裕があったというべきである。したがって、右のような取調べ予定の事実があったとしても、原告佐々木の接見を認めることにより、捜査の中断による顕著な支障があったということはできず、右認定の事実は、右(1)の判断を左右するものではない。

(3) なお、被告は、原告佐々木の接見を認めたならば、売春婦や遊客から真実の供述を得られなくなるおそれがあったとの主張もするが、右のような罪証湮滅の防止を刑事訴訟法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」に含ませることができないことは、前示1(二)のとおりであるから、被告の右主張は失当である。

(4) よって、右同日午後四時二五分ころの原告佐々木の接見申出に対し、これをただちに認めなかった甲検事の行為は違法である。

四  請求原因4(甲検事の故意、過失)の事実について検討する。

1  刑事訴訟法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」の意義について前示三1のとおり解すべきであることについては、前示三1に記載した最高裁昭和五三年七月一〇日判決によって確立され、それ以後、右要件について罪証湮滅の防止をも含む捜査全般の必要性であると解する見解を明示的に採用する裁判例がなかったことは当裁判所に顕著な事実である。したがって、昭和六一年当時、接見指定に関係する公務員は前示三1の見解にしたがって接見指定をなすべき義務があり、その義務に違反した場合には、少なくとも過失が認められることになる。

2  甲検事が、昭和六一年一〇月二四日午後三時三五分ころ、原告佐々木と被疑者Aとの接見により捜査の中断による顕著な支障がないと判断していたものと解すべきことは前示三3(一)(2)のとおりである。したがって、甲検事は原告佐々木の接見申出について、これをただちに認めるべき義務があることは右時点で容易に認識しえたのであって、それにもかかわらず、具体的指定権を行使しようとし、原告佐々木が指定書を受領することに固執してただちに接見を認めなかったことに過失があるといわざるをえない。

3  甲検事が、同月二七日午後四時一五分ころ、捜査の必要性があるかどうかについては分からないとするのみで、右要件の検討をすることもないまま、具体的指定権を行使することを前提にして、原告佐々木に対し検察庁への来庁を求め、接見をただちに認めなかったこと、右時点では被疑者Aに対する取調べの予定があったものの、右接見を認めたとしても、調査の中断による顕著な支障がなかったことは、前示三3(三)(1)及び(2)のとおりである。そうすると、甲検事が、右時点において、右1のとおり最高裁によって確立された見解にしたがって、捜査の必要性の要件について検討したならば、右要件が存在せず、ただちに原告佐々木の接見を認めるべき義務があることは容易に認識しえたというべきであり、それにもかかわらず右の検討を怠ったことに過失があるというべきである。

4  甲検事が、同月三一日午後四時二五分ころの原告佐々木の接見申出に対し、具体的指定権を行使するとして、指定書の受取りのための来庁を求めて接見をただちに認めなかったが、右時点では被疑者Aは監房に居て取調べは行われていなかったこと、被疑者Aの取調べの予定はあったものの、その予定は不確実なもので原告佐々木の接見を認めたとしても捜査の中断による支障は顕著なものとはいえなかったこと、以上の事実は、前示三3(四)(1)及び(2)のとおりである。そして、前示二4(二)の事実によれば、甲検事は捜査の必要性について確認しないまま、右のとおり指定書の受取りのための来庁を求めていたことが認められる。そうすると、甲検事が、右時点において、右1のとおりの最高裁によって確立された見解にしたがって、捜査の必要性の要件について検討したならば、右要件が存在せず、ただちに原告佐々木の接見を認めるべき義務があることは容易に認識しえたというべきであり、それにもかかわらず右の検討を怠ったことに過失があるというべきである。

五  請求原因5(原告佐々木の損害)の事実について判断する。

1  原告佐々木が、昭和六一年一〇月二四日、二七日及び三一日に行った接見申出に対し、甲検事の違法な行為によって、右接見が認められなかったことは前示三3(一)、(三)及び(四)のとおりである。そして、これに対し原告佐々木が、準抗告をせざるをえなかったことは、前示二1(二)(3)、同二3(四)、同二4(四)のとおりである。さらに、原告佐々木が、その間の同月二五日に鈴木弁護士に対し相弁護人となることを依頼したことは、前示二2(四)のとおりであるが、〈証拠〉によれば、原告佐々木から見ると、甲検事は捜査の必要性の有無にかかわらず指定書を受け取らない限り接見を認めないという態度であると解され、他方、原告佐々木としては指定書の受取りは必要ないと考えていたため、自己が指定書を受け取って接見をすることもできず、被疑者Aに迷惑をかけないために、やむなく鈴木弁護人に相弁護人になってもらったものであることが認められる。

2  そうすると、原告佐々木が、三回にわたって違法な接見拒否に会い、自己が尽すべき弁護人としての職務の遂行が妨げられ、また準抗告のための時間と労力を必要とし、さらに被疑者への迷惑を考慮して、相弁護人をも依頼せざるをえなかったのであるから、原告佐々木が右の接見拒否により精神的損害を蒙ったことは明らかである。

3  右のような精神的損害が、検察官の違法な行為の結果生じたもので、かつ右の検察官の行為に過失が認められる場合には、この精神的損害を弁護人として当然負担すべき職務の範囲内のものであるということはできない。また、原告佐々木の第四次準抗告の申立てが、一部認められたことは前示二4(四)のとおりであるが、それにより原告佐々木の精神的損害が生じなかったということにはならない。さらに、刑事訴訟法上の機関である弁護人の接見が妨害された場合、その機関の地位にある弁護士個人に精神的損害が生じないとはいえない。したがって、これらの点に関する当事者の主張二5の被告の主張はいずれも採用することができない。

4  そして、右のとおりの接見妨害の態様、それが原告佐々木に与えた精神的苦痛の程度など、本件に現れた諸般の事情を総合して考慮すると、原告佐々木の精神的苦痛を慰藉するために必要な金額としては、三〇万円が相当であると認める。

(昭和六二年(ワ)第一三号事件)

六  請求原因6(当事者)の事実は当事者間に争いがない。

七  同7(本件接見妨害)の事実について検討する。

1  同7(一)(被疑者Bの逮捕、勾留、及び弁護人の選任)の事実は当事者間に争いがないから、同(二)ないし(一〇)の事実について以下検討するが、同(三)の事実のうち、鴫原警部補が乙検事に電話をしたこと、及び原告齊藤と電話を交替したことは、当事者間に争いがない。

2  右の争いのない事実を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一)  原告齊藤は、昭和六一年一〇月二七日午後二時二〇分に、福島署警務課の警察官に対し、電話で被疑者Bとの接見を申し入れたところ、右警察官は午後三時ころに来て下さいとの返事をした。

(二)  原告齊藤は同日午後三時ころに福島署二階の留置事務室に赴き、鴫原警部補に対し被疑者Bとの接見を申し入れた。鴫原警部補は、原告齊藤に対し、被疑者Bについて接見禁止決定がなされていることを告げたうえ、指定書を持参しているか尋ねた。原告齊藤は、指定書を持参して接見をしたことがないこと等を述べて、接見をさせるように求めたが、鴫原警部補は、乙検事に電話をし、すぐに電話を交替した。

(三)  乙検事は、原告齊藤に対し、指定書を取りに来て下さいなどと述べたが、原告齊藤は、過去に指定書なしで接見をしたことがあるなどと言って指定書なしで接見をさせるように求めた。乙検事は手続の明確化のために指定書を取りに来てほしいと言い、原告齊藤は、手続の明確化のためならば、目の前に留置事務官が居るのであるからこの電話で連絡すれば足りることであるなどと反論した。さらに、刑事訴訟法三九条三項の解釈などについて論争をした。

(四)  原告齊藤は、その間に、鴫原警部補に対し、被疑者Bが取調中かどうか尋ね、取調中ではないとの返事を得たため、乙検事に対し、捜査の必要性がないので自由に接見できるはずだと述べた。

(五)  乙検事は、原告齊藤に対し、鴫原警部補と電話を交替するように求めたうえ、鴫原警部補に対し、被疑者Bの取調べがどうなっているのか確認してほしい、特に捜査に支障がないようであれば、二〇分程度接見をさせる指定書を作成する旨述べた。そこで、鴫原警部補が、福島署刑事二課長の本田警部に連絡をとり、被疑者Bと弁護人との接見に支障がないか確認したところ、本田警部は、「現在取調中であるが、始まったばかりなので、特に支障がない。」との返事をした。

(六)  そこで、鴫原警部補は右のとおりの返事を乙検事に伝えた。その後、乙検事は、再度原告齊藤と指定書受領の必要性などについて話合った後、電話を交替した鴫原警部補に対し、「それでは、午後三時から午後五時までの二〇分間、指定書を作るから会わせてやって下さい。」と述べた。なお右の指示があった時刻は、午後三時一〇分であった。

(七)  鴫原警部補は、右の乙検事の指示について、電話による指定があったものと認め、原告齊藤に対し、これから二〇分間接見してもらうと述べ、本田警部に対しても接見をさせることとなった旨の連絡をした。その結果、原告齊藤は、同日午後三時一五分ころから、福島署三階の接見室で被疑者青木と接見を開始した。

(八)  ところが、その後、乙検事は本田警部に電話をして、原告齊藤と至急連絡をとりたいと言った。そのため、本田警部は、原告齊藤が接見を始めて数分後に接見室に来て、検察官から電話が入っているので出てほしいと告げた。

(九)  原告齊藤が電話に出たところ、乙検事は、原告齊藤に対し、あとでよいから指定書を取りに来てほしいと求め、原告齊藤は右要求を断ったうえ、すでに開始していた接見の再開を求めたが、乙検事はなおも指定書の受取りに固執したため、原告齊藤と同検事との話合いは物分かれとなり、午後四時近くになって、原告齊藤は電話を切った。

(一〇)  なお、被疑者Bは、右接見の中断後も午後三時三〇分までは接見室に居て、その後、午後三時五〇分に取調べが開始された。そのため、原告齊藤は、同被疑者との接見の再開をすることができなかった。

3  右認定に反する証拠について検討する。

(一)  まず、証人鴫原満穂は、原告齊藤に対し被疑者Bが在監中であること、すなわち取調中ではないという趣旨の言葉を述べたことはないとの供述をする。

しかし、前掲乙第一二号証によれば、乙検事は、原告齊藤から「今取調中ではないようですから会わせて下さい。」と言われたことが認められるから、原告齊藤がその前に鴫原警部補に対し右の点を聞いて取調中ではないとの回答を得ていたと解するほうが合理的であって、右のとおり鴫原警部補が回答したとする甲第三五号証(原告齊藤の陳述書)の内容は措信することができ、これに反する証人鴫原満穂の右供述は措信することができない。

(二)  証人乙は、原告齊藤と電話で話合っていた際、原告齊藤から「手続の明確化のためならば、目の前に留置事務官が居るから、この電話で連絡すれば足りることである」と言われたのではなく、「手続の明確化は検察庁と警察の間のことではないですか、現にこの場にBが居るんですから電話で指示されてもいいでしょう。」と言われたのであるとの供述をし、前掲乙第一二号証中にも、右のとおり言われたとの記載部分がある。

しかし、留置事務室で電話をしている原告齊藤のそばに被疑者Bが居るというのは不自然であり、右の乙証人の供述及び乙第一二号証中の記載内容は、原告齊藤本人尋問の結果及び前掲甲第三五号証に照らし措信することができない。

(三)  証人乙は、鴫原警部補に対し、「本日午後三時から午後五時までの間に二〇分間ということで指定書を作りますが、それでいいですか。」と話したが、「それでは、午後三時から午後五時までの二〇分間、指定書を作るから会わせてやって下さい。」と述べたことはないとの供述をし、前掲乙第一二号証にも、右供述に副う記載部分がある。

しかし、前掲甲第六号証の三(鴫原満穂作成の報告書)に照らし、乙証人の右供述及び乙第一二号証の記載部分は措信することができない。

(四)  前掲乙第一二号証中には、原告齊藤と被疑者Bとは接見室で相対したが、被疑者Bが接見室から連れ出されたため両者は会話を交わすこともなかったとの記載部分があり、証人乙もこれに副う供述をしている。

しかし、〈証拠〉によれば、原告齊藤が接見室を出た後も、被疑者Bが接見室に残っていたことが認められ、乙証人の右供述及び乙第一二号証の右記載部分は、右証拠に照らし、措信することができない。

(五)  証人乙は、原告齊藤に対し、あとでよいから指定書を取りに来てほしいと言ったことはないとの証言をしているが、右のとおり「会わせてやって下さい。」と言っている以上、指定書については事後に受け取るように求めるのが自然であって、乙検事が右のとおり述べたとする前掲甲第三五号証の内容は措信することができ、これに反する各乙証人の供述は、措信することができない。

(六)  証人乙は、原告齊藤から接見を開始していたとの話は聞いていないとの供述をしているが、原告齊藤が接見を開始していた以上、それを中断されたことについて原告齊藤が抗議するのが自然であり、乙証人の右供述は、前掲甲第三五号証に照らし、措信することができない。

(七)  そして、ほかに右2の認定を覆すに足る証拠はない。

八  請求原因8(本件接見妨害の違法性)について検討する。

1  まず、同8(一)(刑事訴訟法三九条三項の捜査の必要性の意味)及び同(二)(一般的指定制度の違法性)については、前示三1及び2のとおりである。

2  そこで、右の判断を前提に、以下、請求原因8(四)(本件接見妨害の違法性)について検討する。

(一)  〈証拠〉によれば、被疑者Bの取調べは、昭和六一年一〇月二七日の午前九時五〇分から午前一一時五七分まで行われた後、同日午後二時二五分から再開されたこと、したがって原告齊藤が福島署において接見申出をした同日午後三時ころには、右取調べが再開された後三五分程度が経過していたことが認められる。鴫原警部補が原告齊藤に対し、被疑者Bは取調中ではないと答えたことは前示七2(四)のとおりであるが、鴫原警部補の右回答は誤ったものであるというほかない。

(二)  そうすると、乙検事が、弁護人による接見のため被疑者Bの取調べが中断されることが、捜査にどの程度支障になるかを検討し、その支障が顕著でない限度で接見を認めるべきであるとし、捜査の必要性があると判断したことは相当であり、その具体的指定権を行使し、鴫原警部補に「それでは、午後三時から午後五時までの二〇分間、指定書を作るから会わせてやって下さい。」と述べ、同警部補をして原告齊藤に「これから二〇分間接見してもらう。」と伝えさせた接見指定の処分は、適法といわなければならない。被疑者Bの取調べを担当していた刑事二課の本田警部が、接見のために捜査を中断しても支障がないとしていたことは、前示七2(五)のとおりであるが、このことから「捜査のため必要があるとき」には該当しないとは、ただちには言えない。しかしながら、前示七2(八)ないし(一〇)のとおり、乙検事が原告齊藤と被疑者Bとの接見を中断させたうえ、指定書の受取りに固執して右接見の再開を認めなかった行為は、一旦なされた前示の指定処分を事実上撤回ないし変更するものである。乙検事の右行為は、捜査の必要性から、これを変更すべき合理的理由が生じたためというのではなく、具体的指定権の行使の方法として、口頭でなした前示指定処分について事後的に指定書の受け取りを要求し、原告齊藤がこれに応じなかったためなされたものであって、指定処分を変更すべき理由がある場合にあたるものではない。よって、乙検事が原告齊藤の被疑者Bとの接見を制限した右行為は、違法である。

九  請求原因9(乙検事の故意、過失)について検討する。

1  昭和六一年当時接見指定に関係する公務員は前示三1の見解にしたがって接見指定をなすべき義務があり、その義務に違反した場合には、少なくとも過失が認められることは、前示四1のとおりである。

2  そして、乙検事が、鴫原警部補から、被疑者Bの接見について捜査の中断による支障が少ないとの返事を聞いて前示のとおりの接見指定処分をなしたのであるから、捜査の必要上合理的な理由がないのに、これを事実上変更し、接見を制限することは違法であり、かかる行為が許されないことは、容易に認識しえたというべきである。それにもかかわらず、乙検事は、口頭によって一旦なした接見指定処分について、原告齊藤に指定書の受け取り方を要求し、原告齊藤と被疑者Bとの接見の再開を認めなかったのであるから、同検事には少なくとも過失がある。

一〇  請求原因10(原告齊藤の損害)の事実について判断する。

1  〈証拠〉によれば、原告齊藤は、接見を途中で中断され、その後再開を認められなかったことにより屈辱感を味わうとともに、弁護人が戻って来なかったことにより被疑者Bが抱く精神的不安を慮り、原告齊藤と被疑者Bとの信頼関係が危うくなるのではないかと危惧したことが認められる。したがって、原告齊藤が乙検事の違法な行為によって精神的苦痛を蒙ったことは明らかである。

2  そして、右のような精神的苦痛は、準抗告等の法的手段に訴え、それが認められることによって慰藉できるものであるということはできず、また、刑事訴訟法上の機関である弁護人の地位にある弁護士個人に精神的損害が生じないということもできないから、当事者の主張二10の被告の主張は、いずれも採用することができない。

3  そして、右のとおりの接見妨害の態様、それが原告齊藤に与えた精神的苦痛の程度など、本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、原告齊藤の右精神的苦痛を慰藉するために必要な金額としては、二〇万円が相当である。

(結論)

以上の検討によると、被告の公権力の行使に当たる公務員である甲検事及び乙検事は、その職務を行うにつき、少なくとも過失によって、各原告らに対し違法に損害を生ぜしめたのであるから、被告は、国家賠償法一条により原告らに対し、右損害の賠償をすべき義務がある。

よって、原告らの被告に対する各請求は、原告佐々木については三〇万円、原告齊藤については二〇万円、及びこれらに対する本件各不法行為の後の日である昭和六二年二月一四日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右の限度でこれを認容することとし、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九二条、九三条、八九条を適用し、仮執行宣言については、相当ではないから付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内捷司 裁判長裁判官 小林茂雄、裁判官 都築政則は、転補につき、署名捺印することができない。裁判官 大内捷司)

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